Reseach

研究トピックス

ストレス反応とコルチゾール

 外界からの刺激(ストレッサー)への対処として生じる生体の回復・防衛反応をストレス反応と言います。コルチゾールとは、視床下部-下垂体-副腎形(hypothalamus-pituitary-adrenal axis:HPA系)から分泌されるストレス応答物質の1つであり「ストレスホルモン」と呼ばれています。コルチゾールの分泌は、血糖値上昇、心収縮力及び血圧上昇など生理的覚醒に影響を与えます。つまり、生体に生理的覚醒が必要であることを周辺のストレス応答システムに伝えている、いわゆる「メッセンジャー」的な役割を担っています。

概日リズムと起床時コルチゾール反応

 コルチゾールは概日リズムを有しており、基本的には午前中に最も多く分泌され夕方にかけて徐々に分泌量は減っていきます。しかし、うつ病患者など慢性的ストレスに曝されている者は、健常者と比較し午前中のコルチゾール値が低く逆に夜のコルチゾール値が高いことは報告されています。つまり、これはその日経験することが予測されるストレッサーに対処するための生理的覚醒が十分に得られていないことを意味します。コルチゾール分泌に関して、概日リズムの他に起床時コルチゾール反応(Cortisol Awakening Responce:CAR)と呼ばれる起床直後から30分後にかけて急激な上昇反応が見られることが明らかになっています(Pruessner et al. 1997)。CARは個人内変動の安定性が高く慢性的なストレス反応を反映する指標として期待されています。スポーツ選手のCARを定量化した研究においても、競技生活で経験しているストレス反応との関連性が報告されています(門岡他,2013)。

コルチゾールと心理的コンディショニング

 「朝起きたけどなんだか体がだるい」「欝々とした気分が続く」「夜眠れない」、そのような心身の変調の背景ではストレス応答のメッセンジャーであるコルチゾールの働きが低下しているのかもしれません。従って、様々なストレッサーに対処することが強いられるスポーツ選手のコルチゾール変動を日々定量化していくことは重要です。また、コルチゾールの働きが低下する前に如何に負担を軽減していくかも考慮していく必要があります。例えば、菅生他は自律訓練法などの認知行動技法の学習がコルチゾールに及ぼす影響を検討しています。心理学分野において、ストレス反応の指標としてコルチゾールの変動に焦点が充てられることは他の指標と比べてまだ少ないのです。しかし、コルチゾールがストレス応答のメッセンジャーという重役を担っているのであれば、今後さらなる研究の発展が求められる分野でもあります。